久山との旅 / 徒然なるままに-1 原田宗典

商売柄、昔のことを書くと、
「よくそんなことを覚えているなあ」
としばしば言われる。そう言われると、ちょっと得意な気持ちになるのだが、本当はそんなに記憶力が優れているわけではない。思い出には「思い出し方」が幾つかあるのだ。そしてそれは決して難しい方法ではない。誰にでも簡単にできる。

僕にとって一番有効な「思い出し方」は、地図を思い描くことだ。時には、思い描くだけでなく、実際に地図を書いてみる。これは古い思い出であればあるほど効果がある。例えば、小学校の頃の思い出――そんな大昔のこと思い出せるわけないじゃん、と頭から否定することなかれ。さあ、紙と鉛筆を用意して、実際に自宅から小学校までの地図を書いてみよう。

Image-1
image-2

「いってきまあす」と家を出て、目の前の通りを右へ。
しばらく行くと、右手に郵便ポストがあったな。その先の四つ角には床屋があって、そこを左。まっすぐ突き当たる途中に、そうだ、友人の家があった!おおお、段々思い出してきたぞ・・・という具合に地図を書くと、それに伴ってすっかり忘れていた思い出が芋づる式にぞろぞろ出てくる。というのも小学生の時の思い出というのは通学路と学校の中、自宅の中くらいに限られているからだ。そういう意味では、自宅や学校の間取り図を書いてみるのも有効な「思い出し方」のひとつかもしれない。
もちろん、この方法は、中学、高校、大学そして社会人になってからの思い出にも有効である。まず地図を書くのだ。すると、そこで起きた出来事、つまり思い出はおのずと甦ってくる。
さて今僕は、40年前、高校時代の通学路を思い描いている。せっかくだから実際に書いてみよう。
ほおら、書いてみたら色々思い出してきましたよお!思い出さなくていい思い出や思い出したくない思い出まで一気に!恥ずかしいのは、行きは2号線を真っすぐに自転車でひた走ったのだが、帰りは「令嬢トルコ」と「第2ニシキ館」(ポルノを上映していた)の前を通りたいがために、裏通りを帰ったこと。通るだけでドキドキしたものだ。純情だったなあ。
いかんいかん、話がすっかり横道に逸れた。ごめん久山。
閑話休題。
書いているうちに思い出したのは、操山高校近くの☆印、岡田君の家である。彼は学区外からの入学者(全体の5%なので、“5パー”と呼ばれていた)で、50ccのバイクに乗っていた。にもかかわらず、こんな学校の近くに部屋も借りていたのだ。この部屋を訪ねた時、そこに久山がいた――これが最初の出会いだったことを今思い出した。長髪で顎が尖ってみえるほどやせていたが、あの人なつっこい笑顔で、
「よう!」
とあいさつしてくれたことを思い出す。確かその後、3人でお好み焼きを食べに行った記憶がある。
もうひとつ思い出したのは、駅前大通にある△の中国銀行。大分後になってから聞いたのだが、その昔、久山の祖父の豪邸がこの中国銀行の場所にあったという。昭和の一時期、久山の祖父は鉄工で財を成し、「久山がよしとしなければ、岡山より西へ鉄は流通しなかった」と言われるほどの人物だったそうだ。
「わしが知っとるんは、ボケてどうしようもなくなったじいちゃんやけどな」
と久山はちょっと切なそうに言っていた。
思い出した3つ目は駅前の高島屋である。
大学2年生の夏、僕はここの屋上ビヤガーデンでアルバイトをした。ボーイというかウェイターというか、ビールやおつまみを運ぶ係りである。多分花火大会の時だったと思うが、ある宵、高校時代の同級生が男女とりまぜて十数人、このビヤガーデンに集まったことがあった。その中に久山の姿もあった。
僕は嬉しかったので、上の人には内緒で余計なおつまみやビールをいそいそと運んでやった。すると何度かめかにテーブルに近づいてみると・・・場の空気が変だった。テーブルをはさんで久山とT君がにらみ合っていたのである。T君の顔は濡れていて、どうやらビールをぶっかけられたらしい。どういう経緯か分らないが酔ったT君が久山の気に障ることを言ったのだ。
「やめぇや!」
「おめえら酔うとるんじゃ」
皆、口々に二人を止め、その場はすぐにおさまった。
「久山ってけっこうケンカ早いんだな・・・」
あんなに人なつっこい笑顔をしているのに、怒ると久山は怖い、と僕は思った。少林寺拳法を習っていたこともある、と聞いたので、これ以降、僕は久山にケンカを売るまいと心がけるようになった。
あれあれ、徒然なるままに書いたらけっこうな枚数になってしまった。思い出は尽きないなあ、久山。

原田宗典

2 Comments

  1. 久々の久山さんとのエピソード、嬉しく拝読いたしました!
    高校時代の初対面から、生涯を通じて時間や経験を分かち合える友人に巡り合えるなんて、素敵だなあ・・・とじーんとして読んでいたのですが、最後の「屋上ビヤガーデン」が目に入った途端、以前読んだエッセイ集の「巾着おでんつまみぐい事件」を反射的に思い出してしまいました。
    熱々おでんのつまみ食いで大慌てされたほか、ここでは久山さんの一触触発エピソードもあったのですね(これではバイト中、だいぶ料理を食べられたような・・・ビヤガーデンの強面な主任がちょっと気の毒(笑))。

    原田さんの記憶力、私も凄いな~と思っていました。
    前述のエッセイ集でも、心に強く残っている「はまさん」の話や「コパカバーナ」の登場人物など、詳細で臨場感があり、自分が追体験しているように感じたものです。

    久山さんとの思い出話も様子が目に浮かびます(^^)。

    いいね: 1人

    1. URさん
      いつもありがとうございます。

      原田さん、一生懸命楽しそうに地図を書いてました。書きながら思い出したことも沢山あったようなのでまた何か書いてくれそうです。タイトルにも-1ってついてますし(笑)
      楽しみにして下さい。

      Hitobon

      いいね

コメントを残す