2013年2月初旬、自宅にかかってきた電話に久山は大喜びでした。
ライカX2をベースにポールスミスがデザインしたデジタルカメラ。全世界に1500台しかない限定モデルが手に入ったのです。
実は、この発売を知った久山はすぐに銀座のライカに電話をしたのですが既にキャンセル待ちの何番目かでした。
「あのー、写真家の久山といいます。あのー、僕、末期癌で余命いくばくもない状態なんですけど、最期にこのライカがどうしてもほしいと思っていまして・・・あのー、なんとかしていただけたら嬉しいです。」 どうにかしてライカを手に入れたい久山は
「末期癌ってなんでも言えるな~」と言って笑っていましたが、そのほんの数日後にライカから電話があったのです。(本当に順番が回ってきたのかどうかは定かではありませんが、とにかくカメラは手に入りました。)
ただでさえテンションが上がるライカなのに、ポールスミスデザインですからパッケージも特別おしゃれ。そして中から出てきたぴかぴかのライカ・・・トッププレートは蛍光オレンジ、本体は渋いグリーンの革、ベースプレートはヴィヴィットなイエロー、内臓フラッシュの蓋にはポールスミス本人が手書きで描いたという電球のイラストがあり、フラッシュのスイッチを入れると丸いフラッシュがピョンと飛び出します。
「めっちゃかわいい!小さくてキュート!おもちゃみたいー!」
興奮した久山は、箱から出てきたぴかぴかのカメラの裏に「2013.2.13久山城正」と黒マジックでサイン。誰にもあげないもんね~っ!とでも言いたそうでした。
久山はこのカメラで「自分が見た風景を死ぬまで撮り続ける」と決め、
中身は決してPCに取り込まずJpeg撮りっ放し。
撮った本人もどんな風に写っているのかわからない。
写真が本来持っているエッセンスだけで出来上がる。
そして、それを最期まで開ける事のない『パンドラの箱』と名付けました。
久山は「30年続けてきた写真の終わらせ方を見つけた~神様に感謝!」と本当に嬉しそうでした。
『パンドラの箱』には、2000枚オーバーの写真が入っていました。
「それを見ながら、私が何を見ながら生きていたかを知って下さい。たいしたもんは見てないけど、そんなもんだ。」とメモに遺されていますが、私にとっては1枚1枚が『たいしたもん』ですから、今はまだ『パンドラの箱』に大切にしまってあります。
いつも久山の手の中にあった、小さくてキュートなライカポールスミスエディション。
最期に「これはひとぼんにあげるね」とArtisan&Artistの赤いシルクの組紐ストラップをつけてくれました。カスタム設定も3パターン作ってくれたので、そこを絶対に触らないようにして使っています。
今日は、そんなキュートなライカをぶら下げて神田川沿いをくまとお散歩。暖かい日差の中でハラハラと舞い散る桜を撮ってきました。
Hitobon