久山との旅 / 徒然なるままに-3 原田宗典

亡き友の 夢みし夜明け 彼はただ
にこにこ笑って いるだけだった

と歌に詠んでツイッターに投稿した1月14日。久山は、夢の中で笑っていた。良い笑顔だった。何か会話したような気もするが、覚えていない。目覚めたとき、ただ笑顔の印象だけが残った。
そして今、同日の午後5時、ぼくは今、久山宅にいて、これを書いている。
一昨年の9月から毎週のように通い続けたこの家。ぼくにとってもすごく愛着がある家だが、来週、引っ越すことになった。と言っても引越し先は同じ町内で、歩いて5分とかからない至近距離である。でも引越しは引越しだから、仁子さんは大変だ。今、部屋の中にはパンダの描かれたダンボール箱が嫌というほど散見される。ぼくも前に引越しした時、同じ運送会社だったので、このパンダマークを嫌というほど見て、今ではすっかりパンダ嫌いになってしまった。
「この部屋に来るのも、これが最後か・・・」
久山の遺影を眺めながらふと呟く。淋しいような気もするが、これは新しい始まりなのだと考えるようにしよう。な、そうだよな、くま。と足元にいた犬の頭を撫でてやると、
「ウウー・・・」
とうなられた。可愛いのに、可愛くない奴だ。
「おれの辞書に引越しという文字はない!!」
とでも言いたげな素振りだ。しかしまあ、確かに仰るとおり。
「猫の手も借りたい」とは言っても、「犬の手も借りたい」とは言わないもんな。
しかし、そう言う自分はどうなのかと言われると、犬よりも役に立たない。パンダの箱だらけの部屋にボーっと座っていて時々煙草を吸うくらいしか能がないのだから、我ながら情けない。
「久山の荷物はこれから片付けるんだけど・・・」
と仁子さんが言って、久山の部屋に案内された。洋服とか鞄とか、欲しいものがあったら持っていっていいと言うのだ。ぼくは以前、見せてもらった時に、久山が着ていたアロハシャツが欲しい、と思っていた。それは一緒に九州を旅した時に着ていた覚えのあるもので、羽織ってみると大きさもちょうどよかった。
「こんなのもあるよ」
と言って、仁子さんは熊の描かれた帽子を出してきてくれた。
久山の奴、こんな可愛い帽子をかぶってたのか――と何故かちょっとくやしい思いでかぶってみると、
「あ、原田さん似会う。可愛い」
と言われたので、嬉しくなって、これも貰うことにする。今、それをかぶったまま、これを書いている。
「鞄もあるよ」
出てきたのはハンティングワールドのショルダーバッグや吉田カバンのラゲッジレーベルのバッグ大中小だった。いずれもけっこう使い込んでいるはずなのだが、驚くほど手入れがいいので、全然古ぼけていない。久山は整理好きで物を大事にする奴だったが、その性格が鞄にも現れている。
「いいものだねえ。本当にもらってもいいの?」
「どうぞどうぞ。久山も喜びます」
「そうか。そうだね。じゃ、この黒いやつの大と小をもらう。これ持って、久山と旅するよ」
「あ、そうしてあげて」
というわけで、ぼくは今日、思いがけず久山のアロハと熊の帽子とかっこいい鞄をもらうことになった。何だか急にファッショナブルな物持ちになったような気分だ。
「なるほど、夢でにこにこしていたのは、こういう意味か」
そう思って、にんまりしてしまった。
ありがとう、久山。大切にするよ。一緒に旅、しような。

原田宗典
熊の帽子の原田さん

 

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