長らく連載を続けてきたフランスワールドカップの旅も今回が最終回。
旅の流れから行くと、パリで甘い夜を過した翌日、僕らはナントという街へ行って日本対クロアチア戦を観戦したのだが、実はどういう訳かこのへんの記憶が曖昧なのである。そこで今回は特別に久山本人に登場してもらって対談形式で話をしたいと思う。
原田「よう、久山久しぶり」
久山「よう、原田。久しぶりって毎週おうとるやん」
原田「まあな、フランスワールドカップの旅、最終回だぞ」
久山「フランスワールドカップなあ!でーれー楽しい旅じゃったのお。最終回いうことは、どこ行ったんやったっけ?」
原田「最後はナントっていう街に行ったんだよ」
久山「ナント?そうやったっけ。ああ、クロアチア戦な。確かパリからTGVに乗って行ったんだったよな。だけどTGVたいしたことなかったな。ありゃ新幹線の方が上やで」
原田「おまえ、よく覚えてるな。俺、実はナントに行った時のことほとんど覚えてないんだ。ナントに一泊したんだっけ?」
久山「どうやったかなー。試合は午後で、夕方には終わっていたから、確かパリに戻ったんだと思う。あ、帰りのTGVで夕日が沈むのを見た」
原田「そうか、日が落ちるのは9時か10時くらいだったよな」
久山「せやせや。ほんでパリで一泊してその翌日に帰国したんや。帰りとうなかったなあ」
原田「帰りたくなかった。あのままずーっとフランスにいたかったなあ。お互い日本に帰ると色々ややこしいことがあったからなあ」
久山「それやそれ。でもそういう事情抜きにしてもほんまに楽しい旅やったなあ。原田、おまえどこが印象に残っとる?」
原田「うーん・・・どこも捨てがたいなあ。トゥールーズ、ピュイミロール村、カルカッソンヌ、モンペリエ、パリ、ナント・・・」
久山「ナントはないやろ。わしゃモンペリエかな」
原田「モンペリエな。あの夜会った混血のおねえちゃん、かわいかったなあ」
久山「かわいかった。あん時、ショーウィンドウのガラスさえ割らなければ、あの後もっと楽しいことになってたかもしれんのになあ」
原田「もう充分楽しかったやんか」
久山「原田、おまえモンペリエの夜で書き忘れとることがあるで」
原田「え、そうだっけ、何かあったっけ?」
久山「女郎屋みたいな変な店に行ったやんか。ほら、地元のチンピラみたいな奴に連れていってもらったやんか」
原田「あああ、そうか思い出した。あれ、怖かったな」
久山「怖かった?あんなん序の口やで。わしゃトルコで女買いに行って一晩で3回も騙されたことあるんやから。モンペリエの時は別にぼったくられた訳やないし」
原田「確か裏通りにあるものすごく怪しい店だったよな。案内人の兄ちゃんが扉を開けると、2メートルくらいある大男の用心棒が出てきて、その兄ちゃんが『てめえ二度とこの店に来んなって言っただろ』ってすごまれたんだよな」
久山「あの用心棒は怖かった。確かわしらだけ店に入れてもらって、兄ちゃんはおん出されたんだよな。せやからシステムが全然わからんかったんやな」
原田「ダンスフロアがあって、その周りにソファがあって、そこでビールを飲んだ記憶がある。フロアで踊っているのは年寄りの夫婦みたいだったな。なんだこれ?って俺が聞いたらおまえも、なんやようわからん、って言ってたじゃないか」
久山「なんや、やりてババアみたいな人がそこで待ってろ、言うてどっかに電話しとったんや。せやから待ってれば女が来るんかと思っとった」
原田「そうかそうか、そう言えばそうだ。30分くらいしたら、ひとりスゴイのが来たよな」
久山「せやー、あんなスゴイのんはめったにないで。しかもひとりしか来んし」
原田「待てど暮らせどもうひとり来ないから、しびれを切らして店を出ちゃったんだよな。結局ビール1杯飲んでちょっとドキドキしただけ。でも今思うと、あのドキドキが楽しかったんだよなー」
久山「ドキドキと言えば、カルカッソンヌ怖かったなあ」
原田「思い出したくないくらい怖かった。あんな目に合ったのは、久山おまえのせいだぞ。
久山「わしのせい?拷問博物館に入ろう言うたんはおまえやで」
原田「俺じゃない、おまえだよ」
久山「いやいや、おまえやって」
仁子「こらこら、ケンカしないの」
久山「あ、ひとぼん!ひとぼーん!逢いたかったでー!」
仁子「そんなこと言って、あんた全然夢にも出てこないじゃないの」
原田「そうそう。おれの夢にはよく出てくるくせに」
久山「いや、毎晩ひとぼんの夢に出とるんやで。忘れとるだけやて」
仁子「本当?他の女の夢の中に出てくるんじゃないのー?」
久山「そんなことないって!こないだほら映画観にいったやろ?『セバスチャン・サルガド』あの時もわしゃ一緒におったで」
原田「あの映画、すごい良かったなー」
久山「せやろ。やっぱりすごいカメラマンやで、サルガド」
原田「おまえの家で、サルガドの写真集、見せてもらったけど、本当にすごいよな」
仁子「あのー、これフランスワールドカップの話なんですけど」
原田「あ、そうか」
久山「まあ、ええやん。楽しけりゃ何の話でも」
原田「そうな。えーと、じゃあ話を元にもどして・・・」
久山「原田、おまえ気ィ利かん奴やなあ」
原田「え?何が?」
久山「ひとぼんがおるんやから、ほら、気ィ利かせろや」
原田「何だよ、おれは邪魔者かよう」
久山「ま、そういうこっちゃ、二人にしてくれや」
仁子「ごめんなさい、原田さん、しろー!」
久山「ひとぼーん!」
原田「やれやれ、んじゃ、おれは消えるよ。久山またな」
久山「おう、ばいじゃ」
くま「わんわん!」
原田宗典
続きをお待ちしてました(笑)。でも、最終回だったのですね。
これまでと違った趣向で、今回も楽しかったです。でも、危ない~~・・・読んでいてもヒヤヒヤです。
ところで亡くなった大切な人が夢に出てこないのは、
夢に出てしまうとかえって寂しさがつのり「後を追いかけてきてしまいそう」だから、
まだまだあなたはこちらでやるべきことをしなさいという愛情なのだと聞いたことがあります。
「もう大丈夫だな」と思ったら、夢に出てきてくれるそうです。
ひたむきに久山さんが残した糸を紡いでいこうとされている奥様、素敵です。
私の大好きな岡本敏子さんを彷彿としました。
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URさん
お待たせしたのに、今回が最終回だったんです~。
でも原田さんは「また書くから」って言って、最後に「おしまい」の一言を入れませんでした。きっとまた面白い思い出話を披露してくれるのだと思います。
夢、、、そういうことなんですね!なんだか原田さんのところばかりに登場してちょっと「ちっ」って思ってました(笑)。ゆっくり登場を待ちます。
ありがとうございます。
これからも、久山が遺してくれた写真や繫がりを大切にこのサイトを続けていきます。温かいコメントありがとうございました。
– Hitobon
いつもコメントありがとうございます。
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今回は久山さんと原田さんが実際に会話しているのが聞こえてくるような気がしました。今までの2人の旅のお話し、とても楽しかったです☆あと、メメント.モリ読みました!正直読み進んでいくのに勇気が必要な時もありましたが、やっぱり私は原田さんが書く文章が好きです。これからも楽しみにしています。
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ちいこさん
最終回でまさか私まで登場するとは・・・ビックリでした(笑)。が、こうやって思い出話を書いてもらうことで私は元気を貰っています。きっと原田さんも天国の久山からパワーを貰っているのだと思います。ちいこさんいつもありがとうございます。
Hitobon
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はじめまして。初めて投稿させていただきます。久山さんと原田さん、本当に大切な友人同士であることが伝わってきてなみだがこぼれました。
もう会えなくても、その関係は永遠に変わらないですね。わたしも久山さんのような存在感の大きな、原田さんのような繊細な、そんな人間になりたいと思いました。
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あきこさん
コメントありがとうございました。
会えなくてもその関係は永遠に変わらない。。。今日は久山の命日。
心に響きました。ありがとうございます。
原田さん、また何か書いてくれそうなので気長にお待ち下さい。
Hitobon
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