久山との旅 / フランスワールドカップの旅 (6) - 原田宗典

宿泊先は、カルカッソンヌ駅前に建つ古いホテルで、「フランス版箱根冨士屋ホテル」といった趣である。例によってI澤嬢とブリス君がフロントでの手続きを済ませてくれて、各々に部屋の鍵が配られる。僕の部屋は2階の111号室。久山は隣の112号室。いずれもやけに天井が高く、バスルームも必要以上に広々としていて、全体的に「がら~ん」とした雰囲気の部屋である。ムネノリなんだか不安だわ・・・という第一印象を抱いたのを僕は後になって震えながら思い出すこととなる。隣室の久山も、
「なんかちょっとこえーな」
と言っていたから、やはり何かを感じていたのだろう。
3時半。1階のロビーに集合し、5人揃ってカルカッソンヌの街へ繰り出す。目指すは「ラ・シテ」と呼ばれる城壁及び城内街である。駅前から始まる商店街のウインドウには、やはりワールドカップ関連グッズの姿が目立つ。
「おおー、ワールドカップ・コンドームまであるやんか!」
なーんて騒ぎながら小物屋を何軒か冷やかす。商店街を抜け、やがて大きな川のほとりに出ると、向こう岸の小高い丘の上に巨大な城壁がパンパカパーンと見えてくる。なるほどこれは壮観である。

久山と2人で思わず、
「でけー!」
と声をあげて感心しつつ橋を渡る。城下町の風情を漂わせる街路を抜け、きつい上り坂を登っていく。と、目の前にヨーロピアンな回転木馬が現れ、その背後に第一の城壁がどかーんとそびえている。おそらく、ここからが「ラ・シテ」なのだろう。休憩がてら回転木馬の傍らに腰かけ、目の前の巨大な城壁をスケッチする。描き始めはちょっといい感じだったのに、近くを通り過ぎる観光客の多くが「オー、ニホンジンガ、エヲエガイタリシテマスネ」という視線を投げかけてくるので、途中からは絵を描いてるんだか恥をかいてるんだかわからなくなる。一方久山は、回転木馬を熱心に撮っていた。

10分休憩の後、いよいよ城壁の内側へと入っていく。と、そこはもう中世ヨーロッパの世界。360度どこもかしこも石造りで、甲冑を身に着けた騎士とか、スペードのJの王様とか、火を吹くドラゴンとか、塔の上で助けを待つお姫さまとか、そういうのが似合いそうな雰囲気である。石畳の坂道の両脇には、観光客を当て込んだみやげ物屋が軒を並べていて、京都の清水寺の門前の様子に似ていなくもない。但し、売っている品物がドクロや悪魔の像、中世の武器や、拷問道具のミニチュアだったりして、なんだか陰惨なムードが漂っている。考えてみれば、城壁の歴史というのは、ヨーロッパの血なまぐさい戦いの歴史そのものである。何世紀にもわたる戦争の間に殺された人々の数は、それこそ石畳を成す石の数より多いに違いない。

「これは、相当死んどるな・・・」
「怨念関係かなり染み付いてるな」
「わしら5人以外、実はみんな幽霊だったりして」
などと話していたところ、すぐ先の路地から本当にお化けみたいな格好の男が現れたので、一同ぎょっとしてしまった。血のついたボロボロの服を着て、体中に鎖を巻きつけたその男は、僕らの方へスタスタ歩みよってくるなりチラシを手渡し、無言のまま立ち去った。
「なんやこれ?」
見ると、チラシにはおどろおどろしい拷問道具の写真と拷問実施中の痛そうな絵が数点紹介されている。どうやらこの坂道の先に「拷問博物館」みたいなものがあるので、みなさんお誘い合わせの上ぜひお越し下さい、ということらしい。なんだか意外な展開である。僕と久山はしばし無言のまま互いの顔を見交わした後、
「一応、ゴーモン関係も押さえとくか」
という線で話をまとめ、好奇心に背を押されるまま坂道を上り始めた。
「ま、どうせ子供だましやろ」
と思いっきりあなどっていたのだが、入館してみるとこれが思いの外気合の入った展示内容だった。薄暗くホラーなムードの音楽が流れる中、中世の拷問道具がこれでもかこれでもか、と痛そうに展示してある。レプリカならどうってことないのだが、いずれの拷問道具もその昔、この城壁内で使用された本物ばかり。ひい~、つまり実際に人の血を吸った道具なのね、ほんまもんなのね・・などと想像しながら間近に眺めると、なんだか本当に血の臭いが漂ってきそう。あんまりじっくり見ると呪われそうな気がしてだんだん小走りになってしまう。一刻も早く外に出たかったのだが、久山のやつが、
「そこの人形の隣に座って写真撮ろうや」
などと言うので仕方なく1枚だけ写真を撮った。
img137あたふたと20分ほどで館内を1周し、表へ出る。やれやれである。
空はまだ明るいけど、時刻は既に午後7時を回っている。5人ともゴーモンの毒気に当てられたのか、なんとなくぐったりとした足取りで城砦の中心へ向かう。石畳の坂道をだらだら歩いていくと、やがて目の前に巨大な石造りの砦及び城壁がどどーんと出現した!これがモーでかいのなんのって、久山がマイルドセブンに見えるくらいバカでかい。
よくまあこんな巨大なものを・・・と唖然としてしばし「びっくりしたなあモー」のポーズを決める。それから城壁跡の上によっこらしょと上ってみたところ、おおお!カルカッソンヌの街が一望の下である。目を細めて下界の様子を見下ろしていると、気分はなんだかリチャード3世。「ふっ・・・王とは孤独なものよ」なーんて言って悦に言っているところを久山に撮ってもらう。まんざらでもない気分で必要以上に何枚も撮ってもらった後、城砦の中を通り抜けて石畳の坂道へ。そろそろ夕食時だが、9時からのブラジル戦も観たかったので、テレビのあるレストランを探すことにする。とりあえず城壁を後にして、川にかかった橋のたもとまで戻る。ふと足を止めて振り返ると、小高い丘の上にそびえたつ城壁のシルエットは、「た~た~り~じゃ~」とでも言いたげな風情を漂わせている。なんだかいや~な予感がする。

つづく

原田宗典

※掲載写真は、ホコリを被っていたポジのベタ焼きをスキャンしたものです。このクオリティが限界・・・久山さんお許しを! -team shiromasa

久山との旅 / フランスワールドカップの旅 (6) - 原田宗典」への2件のフィードバック

  1. うわぁ~、菓子パン村の次は「一応、ゴーモン関係も押さえとくか」(ちょっと!)ですか・・・。
    久山さんの無茶苦茶な指示に従って写真におさまる原田さんがお茶目です・・。
    最初は原田さんも人形かと思ってしまいましたよ。少し寄り添って見えるのが、また何とも。

    続きを早く読みたい・・・しかし読むのが恐ろしい気もします。

    いいね: 1人

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

w

%s と連携中