早撃ちの城 - 浜頭仁史

こっちがまだ盛り上がらないうちに、とっとと済ませる人でした。いや、仕事の話。

かれこれ20年にはなるでしょうか。新聞広告の企画記事で、よく著名人の撮影をお願いしていました。こちらが取材をしている間、インタビュー・カットを撮っていただくのですが、とにかくまぁ、仕事を終えるのが早い人で。

通常、取材が1時間ぐらいあったとしたら、カメラマンの方は持ち時間をフルに使って最初から最後まで撮影されているケースがほとんどなのですが、久山さんの場合はいつも開始5分ほどで終わる。
まだ取材が始まったばかりで、こちらが隣でぎこちない会話をしているのをよそに、とっとと切り上げる。視界の片隅に悠然とタバコをふかしている姿がチラチラと入ってきて、こちらとしては気が気じゃない。当時はデジタルじゃない頃でしたから、素人の私にしてみれば、失礼な話、本当に撮れているのかどうか不安になってくるわけです。
ところが、毎回、上がってくる写真は驚くほどクオリティが高い。鑑識眼など持ち合わせていない私のようなド素人でさえも「何か分からんけど、とにかくスゲェ」と圧倒させてしまう力がある。

しかも、他の方なら、たいてい20~30点ぐらい送ってこられて、「テキトーに選んで使ってください」と言われ、その中から一番マシなものを選ぶ、というのがパターンなのですが、久山さんの場合、いつも2点しか送ってきてくれない。「どっちを使ってくれてもエエよ~」って感じ。
ところがこれが、両方とも使いたいぐらい魅力的な仕上がりなので、逆に選びづらくなって始末が悪い。

ともあれ、あの短い時間で、毎回、確実に期待以上の作品を仕上げていただけるので、慣れると何の不安もなくなって、そのうち一緒に取材をしていたのも忘れてしまうほどでした。

また、多忙な超人気タレントの場合、取材時間が短いこともザラなのですが、そんな時、久山さんほど心強い味方はいませんでした。映画会社の担当者から「撮影込みで10分だったら取材可能です」なんて依頼が来た時でも、迷わず受けられる(原稿を書く立場としては10分の取材で2~3,000字は結構キツイのですが)。

しかもインタビューだけで新聞1ページ分の広告を作るとなると、写真もかなり大きなものになります(B5ぐらい)。となると、そのサイズに耐え得るクオリティが求められるわけで、それを短い時間で、ということになると、もう久山さん以外には考えられない。

ちなみに、私と一緒だった時の最短は2分でした。それは、ベビーフェイスの某演技派女優にインタビューした時。
取材時間自体はたっぷり1時間あったのですが、久山さんが自ら2分で切り上げたわけではありません。単に被写体の女優がヘビースモーカーで、「タバコが放せないので、撮影は冒頭5分で」というのが条件だったからです。
しかも、取材が始まって1分半ぐらいのところで、当の女優がそわそわとし始め、指を2本立てて「もう、いいっスか?」なんて言うものだから、その場で終了。
さらにこの女優、ヘビースモーカーどころかチェーンスモーカーだったもんで、陸に打ち上げられた金魚みたいにパクパクと口を開けてひっきりなしに吸い始める始末。被写体と仕事を終えたカメラマンとが嬉しそうに煙を燻らす中、取材なんだか夜のお店なんだか分からない、関西ローカルの深夜番組みたいな1時間が過ぎていきました。

逆に、珍しく長い時間をかけて撮影されたのが2003年、三國連太郎さんの取材。何と、いつもの3倍。15分。
仕上がりも、かなり熱が入ったのか、送られてきたのはいつもの倍で4枚。

この時の写真は、三國さんも奥様も大変気に入られまして、掲載後、ご本人から直々に「このカメラマンさん、すごくいい! オフショットも含めて、すべて欲しい」と頼まれたもんで、わざわざ焼き直してもらい、データもすべてCDにコピーしてもらってお渡ししたほどでした。
あれから10年、久山さんが旅立たれたのは、三國さんが亡くなられたほんの半年後。向こうは90歳で久山さんが55歳。やっぱり早い。三國さんの一体何が久山さんに通常の3倍もの時間と2倍の労力をかけさせたのかについては、結局、聞きそびれてしまいました。
モノクロ変換見本

そう言えば、まだ一緒に仕事をし始めたばかりの頃、久山さんに「写真の良し悪しって、どこで決まるんですか?」なんてド素人丸出しの質問をぶつけたことがあります。若かったからこそできた質問というか、そんな若気の至りが至りに至って極まった愚問にも、久山さんは穏やかに、「画面の四隅まで見てちょーだい。そこに全部、情報が詰まっているから」と教えてくださいました。

要するに、生前に聞けなかった答えは、遺された写真から読み取るしかないわけで。そこにすべての答えを詰めこんでくれているはずだと。

そう信じて、遺された作品を隅々まで眺めていると、何だか今回もいつものように、さっさと仕事を済ませて、どこかその辺でタバコを吸ってるだけのような気がしてくるから不思議なもので……。常に視界の片隅に映っているような、いないような……。

浜頭仁史

*三國連太郎さんの奥様からご了承いただき、久山が撮影した写真を掲載させていただきました。
Team Shiromasa

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