パレルモ「シャンガイ」にて(1) - 河野浩士

■思い出すのは、やっぱり「旅」での出来事

私の現在の職業は弁護士。この仕事には、やりがいこそあるんですが、ひとつ残念なことが・・・。 それは、取材旅行のように、仕事での旅の機会がまず無いこと。たとえ出張があったとしても、地方の裁判所や、関係先に直行し、ほとんどとんぼ返りなんですよ、これが。

じつは、私は、弁護士になる以前、小さな編集プロダクションを主宰していました。当時、最も得意としていたジャンルは、それこそ「旅」についての本や雑誌記事編集や執筆。つまり・・、半分は旅するのが仕事だった訳で

「俺は一生定住者にならず、旅して生き抜いてやる!」などと、本気で考えていたぐらいです。

久山さんとの最初の出会いも、某月刊誌で企画した「日本のワイナリーを片っ端から巡って、作り手のこだわりを取材してまくる」という仕事でした。

そのとき二人で旅しながら・・・クルマの中で「なんじゃ、お互い岡山かいな」

そこから意気投合して、その後もいろんな場所に旅をして回ったなあ〜と思い出すたびに、今も私の心は、久山さんと勝手に旅に出てしまいます。

■シチリアへ

久山さんとの旅でのエピソードはいろいろいろいろありますが、思い出深い旅の一つが・・「シチリア」

いつ頃だったか・・・? たぶん15年ぐらい前の夏だったと思います。

そのとき、ミラノ在住のT氏(料理人の修行に行ったまま、住み着いてしまった日本人です)、久山さんと、私の3人で、2週間かけて、カターニャからパレルモ、そしてマルサラあたりまで、レンタカーでシチリアの町をいくつも巡り歩いていました。今思えば、ロードムービーのような珍道中でしたが、あくまで某雑誌のための取材の仕事です。

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■それは、パレルモの中心部にある市場でのこと。

もう長いことパレルモにも行ってないので、どの市場だったのかの記憶が曖昧ですが、たぶんブッチリアとか、ナントカいう市場だったと思います・・。アラブの香りがプンプンし、混沌としていて迷宮のよう。もつ焼きなど売る屋台も出ていて、歩いてまったく飽きない市場です。

ただし、ここ、夕刻から雰囲気が一転します。広場では、酔っぱらいか、薬物でラリっているんだか、よくわからん連中が、広場にわさわさとたむろしていて、危険きわまりない雰囲気になるんです。

この市場の中心にあるのが「シャンガイ」という安食堂。

古いビルの上にあって、広場を見下ろす広いテラスのある店です。いやいや、今もあるのかどうかは不明ですが、ともかく当時はあったんです。もっとも、テラスと言えば聞こえはいいのですが、そこはテキトーな安食堂ですから崩れ落ちそうなバルコニー。料理といえば、まずまず、不味くはないけど、取り立てて美味という訳でも無かった気がします。

でも・・「なんかここ、メッチャ落ち着くなあ〜」

なぜか、我々3人ともそこが、非常にお気に入りで、いつも建物の上の安全地帯から、広場で繰り広げられる光景を、ぼおっと眺めてました。そこでのできごとです。

あるとき広場を眺めていると、ひときわ若くてぴちぴちした女性が、こちらに向かってウインクしたり、手を振ったりしてくるではありませんか! 見ていると、彼女は、若い女性ながら広場にたむろす清濁入り乱れた怪しげな連中から挨拶されていて、このあたりでは顔のようです・・・。

我々3人は顔を見合わせたのですが、彼女の視線の先はどうみても、T氏や私ではなく、久山さん!

長くなりそうなので(2)につづく・・・

河野浩士

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