Y新聞社の藤川です。著名人の取材等で何度もお世話になった久山さんですが、思い出深いエピソードをひとつ。
久山さんとの仕事はいつも東京だったが、一度だけ大阪に来てもらったことがあった。大御所男優、F・T氏の取材。いぶし銀なその魅力を、しっかり撮ってほしいと思ったから。
愛想の無い社の会議室で取材開始。さすが、煙草を持つ手、煙に目を細める仕草が絵になる。小気味いいタイミングで久山さんのシャッター音が会議室に響く。
インタビューが終わり、決めカット撮影。F氏は渋くカッコいい。だが、あがってきた久山さんの写真には、映画やテレビで見る渋いF氏ではなく、少し照れたように“気をつけ”する、肩の力が抜けた、素の表情があった。見事! おっさん同士、被写体との無言の対話。インタビュー中の<俳優・F>との対比がいい。F氏は、「根っこのところだけつかまえて、現場に身をゆだねることが大事」だと言っていた。今思うと、なんだか久山さんがダブって見える。F氏の柔軟な、その余裕、遊びを、久山さんはしっかり写真に捉えていた。
「音が出ない楽器じゃしょうがないからね。死ぬまで音を出さなきゃしょうがない。いくらバイオリンの名器でも音を出さなきゃ、ダメになっちゃう。……」とは、俳優業を楽器に例えたF氏の言葉。久山さん、最期までシャッター音を鳴らし続けていましたね。私もそうありたいと思います。
藤川典良