ベトナムでイク – 石野哲也

 聞いているこっちが恥ずかしくなるようなロマンチックなことを真顔でサラッと言ったかと思えば、聞いているこっちが感動すらしてしまうほどのエロい願望をペロッとおっしゃるのが久山さんでした。

「ホルマリン漬けの奇形児の子供たちにも命を与えたいんや」みたいな話で、とりあえず下見と称してベトナムへ行った時も、そんなサラッとした発言から始まりました。ベトナム戦争時に米軍が散布した枯れ葉剤の影響により奇形児となって生まれ、亡くなってから病院などでホルマリン漬けとなっている子供たちがいます。その写真を戦争の悲惨さとか、人道的見地とかではなく、純粋な被写体として「天使みたいやねん」という思いで撮りたいという話でした(まぁ12年も前の話なので曖昧な記憶ですから、あとで本人に要確認)。
 当時、すっかり暇だった私は、その写真をニューヨーク近代美術館に展示したいという久山さんのその心意気や良し!! と持ち上げつつ、おこぼれ目当ての下衆なフリー根性も抱えて同行したわけです。


 とはいえ何かと難しい社会主義国のベトナム。特別なコネがあるわけでもない日本人がホイホイと病院での写真撮影などできるはずもなく、“監視対象かもしれませんよ”という旅行会社からのアドバイスもあり、フラフラ不埒なあんなことやこんなことへの行動もままならずに数日が過ぎてしまう体たらく。
 そんな毎日の日課が、カフェでダラダラと道行くアオザイ女性を眺めては「エエなぁ」「エエですなぁ」と語らうことと、2人で1泊7ドルのホテルの隣にある足マッサージ。夕方に、いそいそと出かけては1時間くらい丁寧に足だけをマッサージしてもらうほのかな幸せ。そこのオネエチャンたちともすっかりうち解けた時に「気持ちいいってベトナム語でなんて言うの?」と訪ねたところ「スンワーよ」なんて、カタコト英語でチャーミングに教えてくれたのですね。こいつは良いとオッサン2人で「スンワー」を連発していました。まわりのオネエチャンやお客さんがニヤニヤ見守るなかで、右足揉まれて「スンワー」、左足揉まれて「スンワー」と馬鹿ヅラで連発していたわけです。
 後日、病院での写真撮影に同行して、煙草といっしょに袖の下を差し出す見事なワザを見せてくれた通訳のホイ君は照れくさそうに「スンワーってのは、女のひとが“イク”ってことですよ」と教えて下さった。その顔には“ナニ聞いてんねん!?”という困惑が額の汗とともに浸みだしていたのである。まだ撮影の可否が決まっていない病院への道すがらでの和やかなひとときを、相当焦燥していたと振り返る久山さんだったが“ナニ聞いてんねん!?”というトホホな印象ばかりである。
 オッサン2人が足を揉まれて「イク〜」「イク〜」と連発していたという衝撃の事実が判明したその日の夕方、オネエチャンに「スンワー」って言って!! とお願いしてはニヤニヤしている久山さんが、すね毛が逆毛になって痛くて堪らない私の横にいたという話です。
 まぁ、こんなことがあってもベトナム航空のキャビンアテンダントのアオザイ姿に興奮する久山さんを子守歌で寝かしつけた時からベトナム・ラブなオッサン2人でしたが、ついでにアンコールワットに行って、こんどはカンボジア・ラブにもなりましたよという馬鹿な話は、機会があれば後日に……。

石野哲也

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